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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
その日、俺は近々オープン予定の店舗の営業をしていた。
営業といっても、チラシを手に教室近くの住宅街をまわり、在宅の家には直接手渡し、留守の家にはポストに入れる──そんなものだ。
平日の昼間なのに思っていたより在宅の家が多い。
まあ、小さい子のいる家庭が主だったけれど。
そして、ある家の玄関先に立ち、呼び鈴を押したときだった。
「はーい」
程なく、そんな明るい声と共に開けられたドアの向こうには若い女性が立っていた。
はじめまして、と笑顔で頭を下げる。
顔を上げると一瞬目が合ったものの、すぐに俯かれてしまった。
……拒絶されてるなあ。
心の中で苦笑いをする。
こういった対応をされることは珍しくない。
何かのセールスだと思われ、すぐに拒むような態度をされることは。
少し話して反応が薄ければ、名刺とパンフレットだけ渡して引き上げよう────。
そう思いながら、間もなくこの近くに新しい英会話教室がオープンすることを告げた。
その教室の特徴を簡単に説明するも、俯いたままの女性は話を聞いているのか聞いていないのかさえわからない。
やはり無理そうだな──そう判断しながらも名刺を差し出したときだった。