この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
「……英会話、教室……?」
ぽつりと、女性が呟く。
やっぱり話を聞いてなかったのか──と、再び俺はさっきの話を繰り返す。
俯き加減なのは変わらず、その表情は髪に隠れて確認もできなかったけど、名刺をじっと見つめているその姿。
さっきよりは意識がこちらに向いているようだった。
鞄からパンフレットを取り出し、差し出す。
受け取った彼女にページを開くように伝え、その文を指でなぞるようにしながら説明をした。
「……というわけなんですよ」
話をそう締め、顔を上げたとき。
いつの間にか女性も顔を上げていて、その目が合った。
そのことにひどく動揺した様子に俺も一瞬驚きつつも、笑顔でそれを受け止めた。
また、すぐにさっと俯かれたけれど。
──そのとき、室内から突然聞こえてきた音楽に、女性は弾かれたように振り向いた。
おそらく電話がかかってきたのだろう。
このあたりが引き時かと、その場に立ったままの女性に
「では、よろしかったらご検討ください。
体験入学などもできますので」
そう告げ、頭を下げたときだった。