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水蜜桃の願い
第3章  記憶の中の彼女


「……英会話、教室……?」


ぽつりと、女性が呟く。


やっぱり話を聞いてなかったのか──と、再び俺はさっきの話を繰り返す。
俯き加減なのは変わらず、その表情は髪に隠れて確認もできなかったけど、名刺をじっと見つめているその姿。
さっきよりは意識がこちらに向いているようだった。

鞄からパンフレットを取り出し、差し出す。
受け取った彼女にページを開くように伝え、その文を指でなぞるようにしながら説明をした。


「……というわけなんですよ」


話をそう締め、顔を上げたとき。
いつの間にか女性も顔を上げていて、その目が合った。
そのことにひどく動揺した様子に俺も一瞬驚きつつも、笑顔でそれを受け止めた。
また、すぐにさっと俯かれたけれど。


──そのとき、室内から突然聞こえてきた音楽に、女性は弾かれたように振り向いた。
おそらく電話がかかってきたのだろう。


このあたりが引き時かと、その場に立ったままの女性に


「では、よろしかったらご検討ください。
体験入学などもできますので」


そう告げ、頭を下げたときだった。


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