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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
聞き間違いかと思いながら、視線を彼女に戻す。
すると今度は
「片桐、先生……」
そう、俺の名字も。
「……え?」
俺のこと知ってんの?
もしかして、前にいた教室の生徒?
「……私のこと、覚えてませんか」
少し早口でそう告げられて、その女性の顔を見つめ直した。
さっきみたいにじゃなく、今度はちゃんと意識して。
赤らめた顔を少し俯き加減にし、苦しそうに小さく息を吐くその姿。
唇をきゅっと噛み、上目遣いで躊躇いがちにまた視線を合わせてくる。
なんだか少し泣きそうな……見覚えのある、その表情。
──まさか。
その記憶が甦り、あ……と思わず口が動いた。
「……もしかして……透子ちゃん────?」
無意識のうちに言葉にしていて。
それから、そうだこの子は──と、それを肯定する。
目の前の子は、その瞳を揺らしながら俺を見つめていた。
……ああ、彼女だ。
間違いない。
髪型も違う。
少し痩せたような気もする。
あどけなかった顔立ちは、もうすっかり大人っぽく変わっていた。
化粧のせいかと──そう感じながらも、彼女だと気づいた状態の今はもう、気づかないでいたのが不思議に思えるほどに。