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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
そんな私に、先生はとうとう日本語で話しかけてきた。
「美波さん、ちょっと休憩しよう」
そう言って立ち上がり、待ってて、と言い残して部屋を出る。
ほっ……と、苦しかった呼吸をほどくように、椅子の背もたれに身体を預けながら深く息を吐いた。
それから、壁にかけられた時計を見る。
まだ、レッスンが始まってから20分しか経っていない。
……長い。そう思った。
45分が、こんなに長く感じるなんて初めてだった。
「もう……全然だめじゃん」
おでこに手をあて、また息を吐いた。
全然普通になんてできない。
今まで普通にしていたことができない。
近い距離で目を合わせられ、それを受け止めながらもすぐに意味なく視線を泳がせてしまう私のそんな状態を、先生はどう思っているのか――そんなことを考えたら、もっと、先生が見られなくなった。
こんな状態じゃレッスンなんてできない。
やっぱり、まだ、早かったんだ。
この目で見てしまった彼女の存在にショックを受けて、先生への気持ちが憧れじゃないと自覚したその瞬間の失恋――――。
もっと、その気持ちに整理をつけてからレッスンに参加すべきだった。
……体調が悪いって言って、早退しようかな。
ため息をつきながら、そんなことを考えていたときだった。