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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
──そんなときだった。
突然彼女のスマホが鳴り出したのは。
さっき聞こえたのと同じ音楽。
なぜか躊躇う様子の彼女に、電話に出るよう促す。
そして俺も自分のスマホを取り出し、チェックしていたときだった。
彼女の口から発せられた『体調崩したから今日は行けない』
その、約束を断っているのであろう言葉を耳にして
……それって俺がいるから?
思わず、そう考えてしまった。
なぜなら目の前にいる彼女は具合が悪いようにはとても見えない。
その相手がどういう存在なのかは知らないけど、俺の方を優先してくれるわけ?
そんなふうに考えたそれは、正直悪い気がしなくて。
俺のせいで、と相手に申し訳なく思いながらも、思わず口元が歪んだのが自分でもわかった。
電話を切った彼女に冗談めいた言い方で声をかける。
返ってきた苦笑いでの答えに、続けた質問。
それで、彼女には彼氏がいないことを知った。
電話の相手が職場の同僚だということも。
……そして、そんな話をしているうちに、彼女がだんだん落ち着きをなくしていくことにも気づく。