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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
その動揺は見て取れるようになっていく。
話を切るようにして突然台所に立ったのも、それを誤魔化そうとするためか。
それでもその口が、先生こそ……と発したのは
「……まだなの? 結婚」
俺の左手を見つめながらの一言で、さっき彼女に結婚について聞いたときに手を見られていた感じがしたのは気のせいじゃなかった、と確信した。
……なら、否定したとき彼女がほっとしたような表情を見せた気がしたのも、やっぱり気のせいじゃないんだろうか?
言葉のひとつひとつに彼女が見せる、反応。
それはやはりどこか過剰で。
そんなふうにされれば、俺だって何だかおかしな気分になっていく。
思い出してしまう……彼女との、いろいろな記憶を。
彼女の言動をきっかけに、次々と。
彼女もそうなんだろうか。
俺と同じなんだろうか。
目の前の彼女が、俺の願いのままに桃の皮を剥き、カットしようとナイフを持つ。
あの日は確か、丸ごとの桃を彼女は俺に出した。
かぶりついたそれから溢れた果汁。
今、こうやってカットボードを濡らしていく様子を見ながら……そう、こんなふうに滴ったそれは、強く、甘く香っていたと────。