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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
彼女が見せた、戸惑うような言動。
火照らせた頬。
唇を噛みながらの上目遣い。
照れを隠すためなのか、もう! と笑いながら抗議してくるその口から何度も発せられる、『先生』と俺を呼ぶ声。
職業柄、そう呼ばれることは慣れているはずだった。
けれど、昔も今も彼女のそれが、何故か一番……耳にすっと入ってくるかのような気がする。
不思議と。
そして別れ際、彼女は俺に、ひとつ聞いてきた。
間接的に、付き合っている相手の有無を。
さりげなく言ってきたそれに言葉を返せば、とてもわかりやすい反応を見せてくる。
──やっぱりそうなんだろうか。
それは、再会のときから感じていた、彼女の俺への気持ち。
もちろん、気のせいかとも思った。
けれど彼女の発する言葉の数々。
見せる表情は常に熱っぽくて。
そんな目で俺を見て。
まるで、あのときのようだった。
ひた隠そうとしてもその感情は滲み出る。
10年前と同じ、それが。
あのとき自分に向けられたものと同じ想いが。
そして、この発言────。
付き合ってる相手はいない、と伝えたとき、うそ……と呟いたその表情。
あまりにも、素で。
やっぱり、気のせいなんかじゃないと、そう感じた。