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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
駅に着き、反対方向の電車に乗る彼女に、じゃあまた……と声をかける。
彼女も「うん、またね先生」と笑顔で手を振ってきた。
中学生のデートかよ、と健全なその展開に思わず苦笑しながらも、今はそう、こうやって少しずつ……それでいい。
そんなふうに思えた──そのときだった。
「あれ? 鈴木さんじゃん」
声がして、彼女が振り向く。
少し離れていたが、その視線の先には三人の男────。
小走りでひとりが近づいて来る。
他のふたりはそのままその場にいた。
近くに来た、いかにも好青年というような印象を受けるその若い男は、彼女と同年代だろうか。
聞けば、どうやら職場の同僚らしい。
目の前まで来た彼と二言三言話し、俺を『知り合い』だと紹介する彼女。
挨拶をすれば、どうも……と俺から視線を外さずに返してくる。
……何だこいつ。
愛想のないその態度に、それが初対面の相手にする顔かよ、と少し苛ついた。
俺のことなどさほど気にしてないかのようにまた彼女に視線を向けると、これからどこかに行くのかだの、もう帰るところならこれから一緒に飲まないか、だの誘い出す。