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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
──俺がいるのに。
苛立ちはさらにひどくなった。
でも──と、返事を躊躇うようにちらりと俺を見上げるようにした彼女の視線に気づくも、俺はもうその男だけをただ見ていた。
「だってもう帰るところだったんですよね?」
男のその言葉は、俺を見ているはずの彼女には届かなかったのか、返事はない。
だからなのか
「じゃあ──いいですよね?」
今度は俺に視線を合わせて言ってきた。
──は?
何この敵対心丸出しの顔。
俺を挑発するかのようなその視線に、思わず口を開きかけたときだった。
「わかったから……!」
彼女がそれより早く言った。
でも少しだけだからね? と。
思わず彼女に視線を移せば、男に促されるままに「じゃあ……先生、またね」と俺に小さく手を振りながらそのあとを追っていく。
彼女が去っていくその後ろ姿をずっと見ていた。
──何でついてくんだよ。
は……と息を吐き、俯く。
──何で俺の前でそんなふうに他の男の誘いに?
無意識のうちに唇を噛んでいたらしい。
痛みが走り、気づいた。
モヤモヤとしているこの感情。
……不快だった。