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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
もう一度深く息を吐き、改札へと歩き出す。
ホームに降りればすぐに電車がきた。
乗り込んでドア付近に立ち、降りる駅までずっと、窓に映る自分の姿を見ていた。
頭の中がいろいろな感情で乱れている。
自宅の最寄り駅で降り、外に出て気づいた、目の前にあるホテル。
意図せず足が動いていた。
そう──そこに向かって。
空きがあり、取れた部屋。
室内に入り、ベッドに腰かける。
──俺は何で、家にまっすぐ帰らずにこんなふうに部屋をとってしまったのか。
はあ……と溜め息をつく。
さっきから何度目だろう。
あのとき、俺のそばからするりと逃げていった彼女。
得意気に俺をちらりと見た男の表情が瞼に焼き付いている。
「……ふざけんな」
何で俺があんな目で見られなくちゃならない────。
すぐにわかった。
あの男は彼女に気がある。
なら、あの男も──俺の感情に気づいたのか。
そこまではわからなくとも、彼女と共にいた俺に単純に嫉妬したのか。