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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
──そのときだった。
突然のように聞こえた、ドアをノックする音。
弾かれたように顔を上げた俺はドアに視線を向ける。
しん……と、そこからは何ももう、聞こえない。
……気のせいかとしばらくそのままでいたらまた、コンコンと躊躇いがちな音が。
「────……!」
それに呼ばれるかのように、空の缶をテーブルに置き立ち上がる。
内側に開けたドアの向こうには……彼女が立っていた。
俯いていて、その表情はわからないけれど。
──来た。
すっ、と身体をずらせば、彼女はそのまま室内へと足を踏み入れてくる。
──俺のところに、来た。
そんなふうに思いながら、彼女を見つめる。
顔は上げたものの、俺と視線を合わせようとせず、ただその瞳を落ち着かなさげに揺らしている姿。
さっき別れたときと何ら変わらないようでいて、どこか違うものを感じる。
──何か、あった?
だとしたらそれはあいつが関わってるに違いないだろう。
俺の知らないその時間──ふたりは何を話したのか。
問いたい気持ちが沸き上がる。