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水蜜桃の願い
第4章  動き出した刻


10年前も。今も。
そう──何も、彼女は変わっていなかった。
本質的な部分はきっと、何ひとつ。


思い出す。
たった一度の彼女とのセックスを、ずっと引きずっていたことを。

忘れないで──その約束を守っていた自分自身に、だって約束だからとずっと言い訳していたことを。
説明がつかないような感情に翻弄されていた自分を────。


口づけたときに感じた、彼女が俺を求める気持ち。

……それはたぶん、俺もだった。

吸い込まれるように、重ねた唇。
触れ合うだけで……たた、押し当て合うだけで背中に走った何か。
もっと、と衝動のままに絡め合う舌先に感じた彼女の味は甘く、いつまでも離せなくなるほどだった。

繋がりあった部分が互いに反応し、蠢き、引き込まれ、ひくついて、とろけた。



──好きだと、思った。



それは身体を繋げていることで快楽が思わせた一瞬の感情だったのか──と、上を向けば顔にあたるシャワーは痛いぐらいで。
けれどしばらくそうやって、ただ、考えていた。


その感情を。
その理由を。


……そして、自分という人間を。




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