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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
え? と、先生の表情が、少し固まったようになった。
『ショッピングモールの中の本屋のとこで』
そう続けると、ああ……と、苦笑いのような笑みを浮かべて
『美波さんもそこにいたんだ。
声、かけてくれればよかったのに』
そう、何でもないことのように、返された。
……声、かけようと思ったよ、先生。
頭の中で、先生にそう続けた。
先生の、さらりとしたその言葉に曖昧な笑みを返しながら、私は頭の中でだけ、話を続ける。
……そう思って。
舞子にも、自分の格好チェックしてもらったりして、緊張しながらも勇気を出して、先生に声かけようとしたんだよ?
――でも。
「……先生ひとりじゃなかったから」
口をついて出たその呟きは、日本語のまま。
先生は私の言葉を予想していたのか何なのか、動揺もみせずにただ、その顔に苦笑いを浮かべ続ける。