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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
「あのひと――先生の彼女?」
一度口にしてしまったら、それはもう、止められなくなった。
「ん?」
そんなふうに聞き返すようにしながらも、すっ……と自然に私から視線を逸らした先生に
「……あ、でも違うか。
先生この前、彼女いないって言ってましたもんね……!」
なんだか、胸の奥から急に湧き出てきたもやもやする感情に取り込まれてしまったかのように、意地悪な……まるで嫌みみたいな、そんな言葉をつい口にしてしまっていた。
あのひとが彼女だっていうことは間違いないのに。
繋いだ手と、見たことのない表情。
……間違い、ないのに。
たぶん、今の私――口元に無理に笑みを貼り付けたかのような、そんな変な顔をしているに違いない。
自分でもわかっているのに、うまく直せない。
だからたまらず、下を向いた。
ん――……と。
不意に先生が声を漏らす。
ちら、と視線だけを上げて、先生を見た。
下を向いたまま、片手で前髪をくしゃりとかきあげるその仕草。
そうして、呟かれた言葉。
「……あのときはね、まだ、そんな」