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水蜜桃の願い
第1章  先生と彼女


――あのときは、まだ。


先生の言葉を頭の中で補完する。


――あのときは、まだ付き合ってなかった。


私が聞いた1か月前はまだ、そのひととはそういう関係ではなかったと。
付き合ってなかったと……それは、そういう意味に違いなくて。
本当はいるのに、いないとか。
そんなふうに誤魔化されたわけじゃなかったことを知る。

けれどもその事実が、さらに私の心を追い立てた。


聞きたい。
もっと、知りたい。

でも。
先生は答えてくれるだろうか。
プライベートのことだから、と教えてはもらえないだろうか――――。


そんなふうに、心が騒ぎ出す。


「……って、俺のことはどうでもいいから」


黙り込んでいる私にそう言って、顔を上げた先生。
少し困ってるかのような、それでいてやっぱり柔らかな表情で、私と視線を合わせた。


「美波さんの話、続けて?」


テーブルに両肘をつき、私を促す。


……私の、話。


時計に目をやる。

あと、15分――その数字を認識した瞬間、私の中の微かな躊躇いが消えた。



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