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水蜜桃の願い
第4章  動き出した刻


「……透子ちゃん」


口が、勝手に動いていた。
彼女の名前を呼んでいた。


顔を出さない彼女に、聞こえていないのかともう一度呼びかけようとしたとき、動きがあった。
そっと、頭の半分を毛布から出す。
一度目があった。
すぐに逸らされたけど、苦笑いをしながらも完全に見せてきた顔。
ばつの悪そうな表情で、また、笑いを作る。
そのどこかぎこちない、無理矢理を感じる笑顔。
そのまま、毛布で胸元を隠しながらもゆっくりと起き上がるその姿に見入った。

艶かしいラインを描く、白い肩と、鎖骨。
何度も触れ、なぞり、口づけた肌。
さらり、と真っ直ぐな髪が流れて、少し俯いている彼女の頬を隠す。


もう、告げないと。
さよならを。

言わないと。
……終わりだと。


そう思っていたら、すっ──と、不意に俺に視線を向けてきた彼女。
視線が合う。
今度は逸らさずに俺を見つめてくる。


そして俺は、とうとう口にした。


「……もう終わりにしよう」


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