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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
その瞬間、彼女の口元に少しだけ浮かんでいた笑みが凍りついたようになる。
黙ったまま俺を見上げてくるその表情。
言葉の意味はわかっているだろうと思いながらも、繰り返し告げた。
「終わろう、もう」
「……何を?」
ようやく返された言葉に
「この関係をだよ」
直接的な言葉を吐く。
「……え? なんで?」
彼女はそう言ってまた、消えていた笑みを作った。
ぎこちない、無理矢理な笑い。
呟いた声さえも震えている。
……たまらず、目を逸らして彼女に背中を向けた。
「もう充分楽しんだでしょ?
俺も、透子ちゃんも」
そうして、何でもないかのように口にする。
動揺など見せるわけにいかなかった。
あくまでも冷静に、普通に、そうやって話す。
彼女は何も言わなかった。
俺の耳には何ひとつ、言葉は聞こえてこなかった。
──そうだ。
身勝手な俺に幻滅して、今度こそもう嫌いになってほしい。
それがいい。
……それでいい。