この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
「先生! 待って!」
背後からかけられた、切羽詰まったような声と、物音。足音。
思わず振り返ろうとした瞬間に、背中に感じた衝撃。
同時に、俺の身体を絡め取るように前に回されてきた腕。
「全然わかんない……!
先生、ねえ、先生……っ!」
ぎゅっと力が込められ、きつく抱き締められている俺の胸が、そのぬくもりと彼女の匂いを感じた途端にぎりっと軋み出す。
いや、と彼女の涙声での抵抗を耳にするたびに、ずきずきと痛み出す。
揺らいではいけないのに。
振り向いてその身体を抱き締め返したくなる。
──けれど。
「離してくれる?」
衝動を圧し殺し、静かに告げた。
「透子ちゃん、離して」
心の中はこんなにも乱れている。
なのに自分でも驚くほどに、その言葉が持つ熱は、冷たい。
彼女もそれを感じたのか、はっとしたように緩んだ腕。
早くこの部屋から出たくて。
決意が鈍る前に彼女の前から去りたくて。
や……と彼女の抵抗の声は聞こえていたけど、俺はまた、ドアに向かって歩き出す。
「先生……やだ……」
お願い──と続けられていく言葉は、もはや完全な泣き声になっているのに気づいていたけど、その歩みを止めるわけにはいかない。
ドアのノブに手をかけ、開けた。