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水蜜桃の願い
第4章 動き出した刻
「先生っ────……!」
そして、ドアを閉める寸前に聞こえた、俺を呼ぶその悲痛な叫び。
……胸が抉られそうになった。
バタン……と閉まったドアの音にさえ。
思わず、ごめん、と呟いていた。
彼女には聞こえないけれど。
聞こえないからこその、言葉だったけれど。
そして、向こう側の彼女の声も、聞こえない。
俺の元にはもう、届かない。
この部屋の中で泣いているであろう彼女を思い、ごめん──と、また、呟いた。
どうか。
……どうか、俺のことは、もう。
そして、それだけを思った。
早く忘れて、と。
こんな最低な男のことなんてもう忘れてほしいと。
しばらくそのまま俺はそこで立ち尽くしていた。
ついさっきまで抱いていた彼女のぬくもり、感触、その姿態。
もう、見ることも触れることも叶わない。
彼女の豊かな表情を目にすることもなくなるのだ──そう思いつつも、そういえばそんな彼女の姿は久しく見ていないな、とあらためて気づく。
全部、俺のせいだ──そう、思った。