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水蜜桃の願い
第4章  動き出した刻


明るかった彼女があんなふうになったのは、俺が無理矢理こっちに引きずり込んだから。
自分のことばかり考えて、自分の欲望だけを押し付けて。
彼女のためだと勝手な理由を付けて、セフレとしか説明できないような関係に、強引に閉じ込めた。
彼女があんなふうに泣かなかったら、俺はきっとまだこの関係を続けていた。
都合のいい解釈を、これが……これだけが、正解だと自分に言い聞かせながら。


「ごめん────……」


あの泣き顔が、胸を突き刺す。
その泣き声に、深く抉られる。


──でも、これでもう、自由だから。
俺のことは憎んで、恨んで、最低な男だったとそうやって──忘れてしまって。


口には出せない想いを抱いたまま、振り返って見たドア。
その向こう側の、彼女。


──好きだった……ずっと。


心の中だけで、そっと思った。


──好きだったんだ……透子が。


繰り返し、ふ、と思わず歪む口元。
今さらだ──そう、今さら。


深く息を吐く。


再び歩き出した俺はもう振り返らず、ただ、彼女が俺を憎んでくれるようになることだけを、願っていた。




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