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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
「どうぞ」
不意にかけられた言葉と、目の前に置かれたカップ。
ふっと漂ってきた覚えのある好きな香りに、少しだけ心が安らぐような感覚を覚えた。
彼女もまた、この前と同じ場所に座り、カップを手にしたまま
「先生、怒ってる?」
呟くような言葉を発した。
俺は視線だけを流して彼女を見る。
「怒ってるよね。
……でも来てくれてありがとう」
それをちゃんと受け止める目。
視線を先に逸らしたのは、俺だった。
ゆっくりとお茶を口にしながら、そっと呼吸を落ち着かせる。
これを最後にするために、俺がすべきこと。言うべきこと────。
「透子ちゃんがここまでするとはね」
いかにも呆れている、といったような口調で告げた。
また彼女を見ると、それでもやっぱり俺を見返してくる。
「でも、OKしてくれて嬉しかった……」
「しなかったら本当に、職場の前で待ち伏せでもされかねないと思ったからだよ」
自分でもはっとするほどに冷たい口調になっていたその言葉。
「……だって会いたいのに……先生、電話にもLINEにも返事くれないから」
さすがに、そう口にする彼女の声は少しだけ震えていたけれど
「それがどういう意味かなんてわかるよね」
容赦なく俺は告げる。
なのに会いたがる彼女が悪いんだとでも言わんばかりに。