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水蜜桃の願い
第1章  先生と彼女


「……俺より6つ下かな」


そして、そう、ぽつりと。


「6つ……」


私は無意識にそれを繰り返した。
先生は確か、32歳。
自己紹介の時にそう言ってた。

……じゃあ、彼女は。


「26歳……ですか?」


そうこぼせば、少しだけ俯いた先生の口元に、ふっ……と微かに浮かんだ笑み。

……あのとき、彼女に向けていた、静かな。
そう、私が見たことのなかったあの笑みに似ている――――。


「……同い年」


え? と、先生が顔を上げる。
その笑みはもう、消えていた。


「ああ……そうか美波さんも」


そっか、と再び続けた先生。
また少し俯いてテーブルの一点を見つめるようにするその視線の先にいったい誰を見ているのか……口元には、またあの笑みが浮かぶ。


「――――っ……」


急にこみ上げたこの感情はいったい何なんだろう。

先生にこんな顔をさせるその人。
私と同い年の彼女。
まだ、付き合い始めたばかりのふたり。


――どうして?


あのときのふたりの後ろ姿を思い出す。

先生の手が差し伸べられるのは、私にであってほしかった。
ああやって先生の隣に並んで歩くのは、私でありたかった。
そう、先生のあの笑みが向けられる相手は、あの人じゃなく私であってほしかった。


――ねえ、どうして?


先生の彼女は、どうして私じゃないの――――?




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