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水蜜桃の願い
第5章  甘やかな願い


……そのまま、少しの時間が過ぎた。


一歩も引こうとしない彼女に、たまらなくなった俺は目を逸らし、息を吐いた。


「……調子狂う」


呟きは、彼女には聞こえたのか。
何も、その口から発せられはしない。


「何なの今日。いつもと全然違うんだけど」


俺の言うことを素直に聞いていた彼女はここにはいない。
別れを切り出したあとに会いたいと何度も願われたときも少し驚きはしたが、それでも彼女にも最後に何か言いたいことがあるんだろう、と納得した。
なのに、今、この優しさの欠片もない俺の言動に揺れながらも引かずに言葉を発してくるその姿。
予想外だった。
想像していたはずの展開にならないことに、俺は戸惑い、苛立ち、正直……これ以上何をどう彼女に告げればいいのかわからなくなっている。


そんな俺に、彼女は


「……だってもういい子はやめたから」


呟くように、そう言った。


「は?」


……いい子? って、何?


彼女の言葉の意味がわからない。


もうやめた? 
どういうこと?


そして離された腕。
なくなった彼女の手の感触。
さっきまでここにあった、白い指先。

その場所を黙ったまま、見つめた。


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