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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
彼女の勘違いに、そのまま乗ればいい。
そう思うのに、否定の感情ばかりが渦巻いて、それがもっと俺をぐちゃぐちゃにしていく。
もう、動悸は激しくて。
何かの塊が喉までせり上がってきているのを感じる。
それが俺の呼吸を苦しくさせている。
なのに、そんな俺の動揺をよそに、彼女は曖昧な表情のままで、やかんに水をくみ、火にかけた。
そして広がる、コーヒーの香ばしい香り。
てきぱきとお茶の準備をする彼女からは、冷静さしか感じない。
俺はこんな状態だというのに──と、苛立ちにも似た感情で彼女を見つめ続けていたら、不意に顔が上げられ、そのまま俺を見つめ返してくる。
そして
「……先生が好きで、先生と付き合いたいってちゃんと言う、って」
そう、口にした。
揺るがない瞳に、飲まれそうになる。
頭の中ではぐるぐると言葉が回っているのに、喉にある塊に邪魔されてでもいるかのように、何も口にできない。
俺を真っ直ぐに見つめてくる彼女の視線が痛い。
俺の気持ちなんて見透かしてでもいるかのように思えるほどの、その瞳。