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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
……ただ見つめ合うだけの、長い沈黙。
やがて、彼女は何かを諦めたかのように、ふっと小さく息を吐き、俯く。
けれど解放されたのは視線からだけ。
言葉からは逃れられなかった。
「……考えてみたらいい子になれるはずなんてなかったんたよ」
呟くように彼女は続ける。
また、いい子という言葉を口にする。
「だって私は家庭教師の先生におねだりして抱いてもらうような子だったんだから
……もともと、そういう悪い子だったんだから」
──え?
それは『いい子』よりも違和感を覚えた言葉だった。
悪い子?
彼女が?
彼女のどこが?
わからない。
だって、悪いのはずっと俺で。
俺だけで。
彼女はただ、俺に合わせていただけで。
「先生はよく自分のことをずるいって言うけど、そんなの私も同じ。
……なかったことのようにすれば、先生とあと半年はまだ会えるって思ったんだもん」
それが10年前の出来事を指していることに気づいても、それでもやっぱり俺には彼女がそんなふうには思えない。
卑怯なのは俺で。
彼女は、狡くなんてない。