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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
その言動の何もかもが、彼女の正直な感情で。
わがままを言わないことも。
約束を守り続けたことも。
たとえそれが俺に会いたかったからだと、好きになってもらいたかったからだという理由だったとしても、それに対して俺は狡いだなんてやっぱり思えない。
「きっと先生はやりづらかったはずなのに……私に合わせてくれて。だから全然ずるくなんかなくて」
彼女が続ける言葉は、どこまでも自分を責めている。
俺じゃなくて、自分を。
──違うだろ。
違うんだって。
俺は、彼女を、ただ。
「……全部、私が────」
健気な子だと思ったんだ。
そう、ただ。
そんなふうに思って。
そして────。
「……聞こえなかった」
気づけば、しん……としていた室内に、彼女の言葉が波紋を描く。
「なに?」
その目がまた俺へと向けられる。
──ああ、そうか。
俺は、口にしていたのかと。
彼女の反応でそれを知る。
もう、黙ったままでいるのは無理なのかと、漏れた深い溜め息。