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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
「私のこと、少しぐらいは思い出してくれてたの……?」
そして、静かに腕にふれられて── 思わず俺は唾液を飲み込んだ。
視線をそこに落とし、その白く細い綺麗な指先を見る。
じわり、と感じる彼女のぬくもり。
そして、頭の中を巡っている、あのときの自分の記憶────。
「……約束してなかったら、なんてわからない」
やがて口から零れ出た言葉は、ある意味素直なそれで。
「その約束はすでにあったものだから。
透子ちゃんを思い出すのは約束したからなのか、そうじゃなくてもそうなるのかなんて考えたこと……ない」
そう……あらためて、考えたことなんてなくて。
今、聞かれて考えてみても、それにはやっぱり答えは出ない。
願われたからだったのか。
願われてなくてもそうだったのか。
……わからない、けど。
彼女を思い出していたことは、確かだった。
その事実の前には、考えても答えの出ないことなんて、もうどうでもいい気さえした。
うまく伝えられないそのことに黙ったままでいたら、そっと彼女の手が離れる。
──咄嗟に、掴んでいた。
びくっ、と驚いたように手が逃げかける。
けれど俺は許さなかった。
掴んだ細い手首。
逃げるのをすぐにやめた彼女の指先に現れているのは動揺だろうか。
それを見つめながら思っていた。
……このまま離したくないと。