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水蜜桃の願い
第5章  甘やかな願い


「……せっかく逃がしてあげたのに」


呟きは、彼女にも聞こえたようだった。
え……? と、聞き返される。


「え、何……それ」


俺の言葉が理解できないとでも言うような声色。
顔を上げ、視線を合わせた。
じっと、彼女を見つめる。


──このまま、何も言わずに俺からもう解放してあげようと思っていたのに。


幾度となく揺らされた決意。


好きだから、彼女から離れようと思った。
好きだから、こんないい加減な俺なんかだめだって、そう考えて。
嫌われようと、わざとひどいことをし続けた。
別れたあとも、苦しかった。
彼女の最後の表情──頭から消えず、眠れない日々が続いた。
それでも、彼女が俺をふっ切って、もっといい相手といつか幸せな恋愛をしてくれるならと……そう思って、手放したのに────。


彼女が、俺を見つめたまま後ずさる。
俺から離れようとする。

けれど俺は手を離さなかった。
そのまま、立ち上がる。

彼女の、戸惑い。
先生……と掠れた、小さな声。


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