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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
彼女の顎から離した手。
それでも、やっぱり俺を見つめたままの潤んだ瞳。
挑戦的な色はなりを潜めていたが、俺のすべてをどこか見透かそうとしているかのように今度は感じた。
「……だから、私をホテルに呼んだの?」
躊躇いがちな言葉がぽつりと落とされて
「来るかどうかは透子ちゃん次第だった」
同じように呟くように返せば、間髪置かずに、……っ、と詰まったような声のあとに
「そんなの……行くに決まってる……!」
必死な目で
「だって先生が好きだから……!
会いたかったから……!」
そうやって、また、俺に言葉を。
なぜ揺るがないのかわからない、想いを。
「……っ、なのに先生……何だか冷たくて……」
急に揺らいだ声。
彼女は唇を噛み、とうとう俯いた。
深く吐くその息は、微かに震えを纏っている。
胸がぎりっと痛んだのは、その姿にか。
逸らされた目にか。
「……男がいるホテルに来るってのがどういう意味かわかってるのかわかってないのか。
ただ真っ直ぐに俺を見て、そうやって気持ち露わにして」
呼ばれたから、と言った彼女。
俺が呼べば、そこがホテルでも来るという彼女。
素直で、一生懸命で、可愛くて。
「……取られたくないって思った」
え……と、ゆっくりと顔を上げる彼女。
視線が、再び俺へと向けられる。
揺れる瞳に映っているのは何なのか。
「あいつより俺を選んで来た、この子を」
「……せん、せ……」
……細い手首。
俺の手に貼り付けられたままの姿。