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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
「……けど、やっぱり駄目だった」
彼女に向けつつも、独り言のように。
「苛ついた感情を押さえられず衝動的にあんな無理矢理抱くとか。
しかも10年前のことまで持ち出して拒めないようにさせてなんて……っとに、ガキは俺だよ。人のこと言えないよな」
考えれば考えるほど、あれは最低な行為だったと思う。
漏れてしまった自嘲気味な笑みをすぐに抑え、代わりに息を深く吐いた。
「だからやっぱり駄目だって思った。
透子ちゃんと俺は違いすぎる。
……こんな俺じゃ、ただ傷つけてぼろぼろにするだけだって」
掴んでいた手首から、ようやく離した手。
自由になったその手はそれでも、その場所にあった。
ほんの少しだけ後ずさるようにして、距離を置く。
また息を吐き、そして目を閉じて思い出す。
いつも真っ直ぐに俺を見ていた彼女。
それは、昔も、再会したときも、身体を繋げたあとも。
その健気さを心地よく感じながら、時折、それから逃れたいという衝動にも駆られていた。
どんなに想われても簡単には応えられない、応えるべきじゃないという考えが常に俺の中にあったからかもしれない。
後のことなど考えず、気持ちのままに彼女を受け入れてしまおうか──そう思うことももちろんあった。
けれどそのたびに、俺がそれまでしてきたことを突き付けてくるもうひとりの自分が現れて、その考えのままに行動することを許そうとはしなかった。