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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
「……美波さん」
しばらく続いた沈黙のあと、先生がそっと私の名を呼んだ。
目を閉じて、深呼吸のように長く息を吐く。
それから、顔をあげた。
「……はい」
私を見ている先生の表情は、どこか気遣わしげだった。
「もう時間ですよね……」
ちら、と視線を投げかけた先の時計の針。
……レッスン終了の時間を、指していた。
「いろいろ……すみませんでした」
もう一度先生に視線を戻し、座ったままで頭を下げた。
俺こそごめんね、そう呟く先生の言葉に首を振る。
それから、顔を上げた。
「先生……」
ずっと好きだった先生。
私の想いは叶わなかった。
私は先生にとっての恋愛対象にすら、なれなかった。
「最後にもうひとつだけ……聞いていいですか」
突きつけられた現実に、それでも、なんてさらに思えるほど私は強くない。
あの、先生の躊躇いのない拒絶は、私からそんな意欲などあっという間に奪ってしまっていた。
もう、諦めよう。
……ちゃんと。
そう、あれだけはっきり言われたんだから――――。
「うん」
そして先生が、いいよ、と私の問いを促してくれたから。
私は、心の中に最後まで刺さっていた棘をそっと抜き、口にする。
「私はだめで、その人ならよかった理由って……何だったんですか」