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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
──そういえば、人前で手を繋がされるのも好きじゃなかったな。
あの子はべったりと俺にくっつきたがった。
誰の前でもそうやって触れたがり、人にそういう姿を見せるのは苦手な俺が拒んでも、そんなのおかしいと言わんばかりに抗議して、しまいには「私のこと好きじゃないの?」と泣いて拗ねていた。
そのときのことを口にしているあいだ、彼女はずっと黙っていた。
付き合うのは面倒なことだと思ってしまった理由。
その、とてもスムーズにはいかなかった別れも、すべて。
話しながら、彼女が重ねている俺の手に目をやる。
ここに来る前も、願われて、繋いだ。
いやだなんて思わなかった。
むしろ嬉しかった。
この子は俺のものなんだと──そう感じて、自分から繋いだ手に力をこめたぐらいだった。
……こんなにも、違うものなのか。
そう思うと、あのときの彼女に対して申し訳ない気持ちまで、沸き上がってくる。
軽い気持ちでOKしてしまった交際。
相手に心などないのに、その関係を始めてしまった。
始めるべきではなかったのに──そんな俺の適当な考えが、相手を傷つけ、結果的に自分で自分の首を絞めることにもなったのだと。