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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
「美波さん」
先生も、立ち上がる。
至近距離で、見つめ合った。
「……ごめんね。
でも――ありがとう」
そう言って、微笑む先生。
ありがとうだなんて――彼女だけが好きだという先生にとっては、本当は私の気持ちなど迷惑だったんだろうな、と……意地悪い考えが浮かぶ。
私が退いたことに、ほっとした?
だからそうやって、余裕の笑みを私に向けるの?
どこまでもいい人の先生に、そんなふうにまた感情が高ぶる。
それは苛立ちにも似ていた気がするけど、よくわからない。
ただこのままこの時を終わらせることが、無性に。
……そう、無性に、いやだった。
「先生」
ん? と、私の声に応えてくれる先生のその表情はどこまでも優しい。
でも、今はその優しさにさえ、感情が乱れる。
「私……先生に彼女がいても構わないです」
「え?」
その表情が、一瞬にして強ばり
「だから……二番目でも。それでも――――」
「……何言ってんの」
再びの私の言葉の意味を理解したのであろう先生はそう呟き、俯いて溜め息をついた。