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水蜜桃の願い
第5章 甘やかな願い
面倒だと思われてしまいそうなことを、それでもせずにいられないのは何故なのか──そう、今は。
同僚だという男が、親しげにこの子に話しかけてきた姿。
感じた嫉妬。
俺が好きなら俺だけを見ればいいのにと、その言動に覚えた勝手な苛立ち。
好きだと言われても、何度もそれを確かめたくて。
揺さぶって、それでも揺るがないほどの気持ちなのかと確認したくて。
……そんなふうに思えたのは、彼女にだけだった。
「……結局、俺がちゃんと好きになった相手って透子だけなんだなってそんなふうにも思ったよ。
こんないい年して、恋愛経験も浅くて……なんか格好悪いな、俺って」
はは、とまるで自分を嘲笑うかのような笑みが勝手に漏れた。
格好つけて、大人を気取って。
けれど本当は、こんな。
……こんな、みっともないところばかりの自分。
彼女を好きになったことで気づかされた、本当の俺────。
こんな俺を、本当に彼女は好きなのかと──どうしてずっと好きでいられるのかと、何度も心の中で問いかけていた。
そんなふうに愛してもらえる自分じゃないのに。
なのに、彼女は理由などないと。
好きになったことに、好きでい続けたことにわけなどないと俺に言った。
……俺だって。
なぜ、彼女にこんなに惹かれるのか。
どうして彼女にだけ、こんなふうになるのか。
理由なんてどうとでもつけられたけど、本当は、わけなんかきっとなくて────。