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第5章 　甘やかな願い

……ふと気づくと、彼女は首を振っていた。
その拍子に、潤んでいた瞳から零れる雫。
指先を伸ばし、それを拭ったのは半ば無意識のことで。


「……そんなこと……っ、ない……」


懸命に紡いでくれる気持ちに、ぐっと胸が掴まれる。
そんなことないよ──と、繰り返し俺の言葉を否定しようとしてくれる姿に、彼女への想いが止めどなく沸き上がってくる。


「……教えてくれる？」


え……？　と俺を見るその目を見つめ返し


「透子が、俺の言動に傷ついたときはちゃんと」


そう、願った。


もう、哀しませたくない。
俺が原因でこの子の表情を曇らせるようなこと、したくない。
でも、未熟な俺はまた、いつか何かをきっかけにそうさせてしまうかもしれない。
だったらそれを教えてほしい。
すぐに、その気持ちを上書きできるように。


「俺、ちゃんと向き合うようにするから。透子がしてくれたように。
今までの俺を理由に逃げるなんてもうしない。だから────」


また、零れた雫。
同時に、う……と声を詰まらせたような呻き声を上げ、彼女は俺に抱きついてきた。


「……ありがと、先生……っ……」


そんな言葉を俺にくれながら。