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水蜜桃の願い
第2章 先生と生徒
その考えを、ないない、とすぐに打ち消す。
先生って呼ばれてる人、世の中にたくさんいる。
ショートボブの人だってたくさんいる。
ここにだってほら、私も入れれば見えるだけで3人も。
「……そうなのかなあ」
私の耳はもう、後ろの席のふたりの会話だけをとらえようとしている。
みなみ、と呼ばれた女性の溜め息と共に漏れた言葉。
「そうだよ」
肯定する、相手の女性。
少しの沈黙が訪れていた。
声には出さずに動作で何か答えているのかとも思い、気になったけど、振り向いて確かめるわけにもいかない。
「……もう少ししたら行かないと」
やがてまた、言葉が聞こえ始める。
「レッスンって何時からだっけ?」
「7時半」
……7時半。
先生の今日の最後のレッスンは……確か、その時間からだったはず。
何時頃に仕事が終わるか話していたとき、そう先生は言っていた。
「え? もうこんな時間だよ?」
その言葉に思わず私もちらりと壁に掛けられた時計を見てしまった。
すでに7時15分を指している。
「大丈夫。教室、ほんとすぐそこだから」
すぐそこの教室────。
心臓の動悸がますます早まった。