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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
「あ」
舞子の口から漏れた呟き。
同じように、私の口も開いて……言葉にならない呟きを、発していた。
視線の先。
先生のもとに近づいていった女性。
先生が、その人に視線を向ける。
動く口元。何か話してる。
少し小柄なその女性は、さらさらのショートボブの髪を揺らしながら、首を振る。
先生の口元がきゅっと結ばれ……そのまま上げられる、口角。
右手が、彼女へと差し出され。
その手に、本屋の紙袋を渡した女性。
そのまま先生は私たちの方に背を向け、歩き出した。
ついていく女性。
「……美波」
舞子が私の名前を呼ぶ声は聞こえていたけど。
何も答えられず私はただ黙って、私たちから遠ざかるそのふたりの後ろ姿を見つめていた。
不意に、先生が少し振り向いた。
左斜め後ろをついていくように歩いていたその人に手を差し伸べる。
すぐに右手でその手を掴み、そのまま先生の左側へと少し早歩きで並ぶ女性。
先生は、横にきたその人に視線をやる。
軽く微笑むだけの表情。
……見たことのない、どこか静かな、そんな笑い方だった。