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最後の一色
第11章 14日目
鍋からは醤油の良い香りが立ちのぼり、炊飯器からは
炊けたお米の匂いが漏れ薫る。
時刻は6時を少し回ったところ。
美紗緒は後片付けを終えるとエプロンを外して丸めてトートバッグにつっこんだ。
その手の動きが遅いのは、まだここにいたい、という気持ちの
表れかもしれないと下を向いてこっそりと微笑んだ。
「じゃあ・・私はこれで・・食べる時にまた温めてください」
バッグを肩にかけ玄関へと向かう美紗緒の後を涼輔が追う。
離れがたい・・それが正直な気持ちだった。
「あ、あの・・」
あの、よかったら一緒に・・そう言いたい。
でもそれはできない。
なぜなら彼女は・・人妻だから。
家に帰って自分の家庭の夕食の支度をしなければならないから・・
「はい?」
振り向く美紗緒は何かを期待するような、そんな目を返してきた。