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最後の一色
第17章 25日目は夜まで・・

キッチンにむかう美紗緒の後姿も見慣れたものになった。
初めての時は何もしていない自分が緊張して肩が張ってきた。
このキッチンで女が自分のために料理を作ってくれるのは1年ぶりだったこともあり、
こそばゆい幸福感が緊張という形で現れたのだろうと、
あの時を思いだしてクスリと笑った。
その気配を感じたのか、手元の包丁に視線を置いたまま、美紗緒が話しかけた。
「なぁに?今笑ったでしょ?」
トントンと包丁の音を絶やさぬまま、涼輔の返事を待つ。
「あ、聞こえたの?
いや、またここで女性に料理を作ってもらえる日が来るなんて
1年前には思えなかったからね。
もう何度もその後ろ姿をみてるけど、今でも浮かれちゃうんだ」
女の大きな笑い声と、ヒグラシの声が重なった。
蒸し暑さから生温かさに変わった夕方の空気の中、
首筋にうっすらと汗をにじませる女の後姿を眺めながら、
男は同じように笑った。

