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最後の一色
第17章 25日目は夜まで・・
帰りたくない・・
そう拗ねる人妻をなんとかなだめすかした。
「だめだよ、美紗緒さん・・
もしもあなたが一晩家を空けたことがご主人にばれたりしたら・・
あなたが辛い目にあうだけだ」
説き伏せるような涼輔の口調に、美紗緒はコクリと頭を動かし
その胸の中に顔をうずめてから涼輔と2人、アトリエを出て駅へと向かった。
駅の灯りが見えると美紗緒はつなぐ手に力をこめた。
次にこの手を取るまで感触を忘れないように・・
そんな思いを込めて。
受け取った涼輔はそっと手を離す。
電車の到着を告げるアナウンスが聞こえると、美紗緒の背中を押す。
振り返った美紗緒の顔は、今まで見た中でいちばん美しかった。
「じゃあ・・また明日・・」
うん、と小さく返事をして涼輔は改札から一歩下がる。
ホームには電車が滑り込んできた。
美紗緒はドアの前で涼輔を振り返る。
ほんのわずか目を合わせられただけで、
あとは降りてきた乗客たちにさえぎられてしまった。
動き出した電車がはるかかなたに見えなくなるまで、涼輔は
夜光虫の飛び回る街灯の下で立ち尽くした。