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最後の一色
第19章 最後の一色を足す日
「こちらは絵のモデルをお願いした鈴野美紗緒さんです」
紹介されて、伏し目がちに会釈をする。
「そうでしたか。私、ギャラリー雫の佐竹と申します」
挨拶の後カウンターから名刺をとってきて美紗緒に差し出した。
「実は今日、彼女をモデルにした絵が完成したんですよ」
横から涼輔が声をかけると佐竹は、視線を残したままの美紗緒に微笑みかけた。
「ほう、それはそれは」
「それで、毎日アトリエに通ってくれたお礼にと食事をかねてここへお連れしたんです」
「そうでしたか。ではどうぞごゆっくり、ご覧になってください」
佐竹は道を開けるようにしてカウンターの前へと移動する。
狭い空間ではあるが、息苦しさを感じさせないのは、
壁にかかる涼輔の絵が圧迫感のない透明な雰囲気だからかもしれないと
直観的に美紗緒は思った。
絵は、風景画がほとんどだった。
どこか外国の町並みの様な絵も一つ二つある。
日本の田園風景や美しい山々をバックに湖のきらめきを描いている作品などが
特に美紗緒の眼を引いた。
懐かしい、子供の頃の記憶をすんなりと引き出してくれるような、穏やかな絵だった。
他には花の絵が2つほど、かかっていた。