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最後の一色
第19章 最後の一色を足す日
ゆっくりと絵の前を移動している美紗緒を横目に、佐竹は涼輔に小さく声をかけた。
「もしかしてその作品、今度の日本絵画展に出品するものでは?」
「はい、これを最後の出品作にしようと思いまして」
「またどうして?」
佐竹は、言っていることの意味が解らない、そんな目で画家を見返した。
「ここいらで区切りをつけようと思いまして。
来年の春から予備校の講師をすることにしたんです。二足のわらじってやつです」
声をひそめた涼輔の意図を察してか、女の姿に目をやってから、
再び小声で話しだす。
「でも・・もし入賞されたら・・?」
「どうでしょう・・もしも入賞できたとしても、画家一本はもう難しいと思います・・
まぁ入賞できれば、今より高く絵が売れるかもしれないなんて期待してもいいですかね」
声をあげて笑う涼輔を、美紗緒が振り返る。
かわす視線は昨日までとは違う、特別な色を持っている。
その2人の間に流れる空気を、佐竹は読み取った。
画家・田原涼輔の秘めたる思いが、佐竹を無口にさせた。