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最後の一色
第21章 最終章:運命の導き
春を目前に、寂しい様相のアトリエの庭は、
夏に見ていた時よりも広く感じさせる。
ハーブや草花に導かれていたエントランスは、倍くらいの広さに見えた。
今まで一度も鳴らしたことのない玄関ベルを鳴らしてみる。
深みのある鐘のような音だと、今初めて知った。
バタバタと廊下を踏み鳴らす音のすぐ後、ドアがゆっくりと開いた。
あの頃と変わらない穏やかな笑みを浮かべる愛しい男がそこにいた。
「いらっしゃい!」
涼輔の笑顔が、張りつめていた美紗緒の心を緩めていく。
「お久しぶりです」
まずはとびきりの元気な笑顔を見せなければと、無理やり笑顔を作る。
あふれ出そうな涙を必死にこらえ、微笑みを向けた。
「久しぶり。元気そうでよかった。・・それにしても・・
その荷物は?まさかそんなにたくさんのお菓子を焼いてきてくれたわけじゃないよね?」
冗談を言ってみたものの、まるで旅行にでも行くような大きな荷物を見て、
涼輔は少し不安を感じて美紗緒を見返した。
「私・・家を出てきました・・」
「え?」