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最後の一色
第1章 ため息の中で
もちろん、水商売で働いたことはない。
ごくありふれたOLをし、結婚退職をして家庭に入ってからは
パートの仕事もしていない。
そんな私に客商売なんてできるだろうか・・
不安の色一色に染まった顔で張り紙を眺めていると、
後ろからトントンと小さく肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、男が静かな笑みを浮かべて立っていた。
その風貌は、どう見てもサラリーマンではない。
ダボッとした麻のシャツの袖をまくり、細くも太くもないジーンズをはき、
一目見ただけではどんな職業なのかわからない、そんな恰好をしている男だった。
「あ・・あの、なにか・・?」
美紗緒は身を硬くしながら震える声で尋ねる。
男は軽く一礼してから口を開いた。
「もしかして・・仕事、お探しなんですか?」
耳よりも長い髪をかきあげるようにしながら男は聞いてきた。
よく見るとすっきりと整った顔立ちをしている。
いやらしさも悪さも感じさせない、穏やかな表情が美紗緒を少し、安心させた。