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最後の一色
第6章 5日目

「いただきます・・」

ブラックコーヒーを一口含む。
砂糖もミルクもないとがった味は、かえって疲れを癒してくれた。

「あの・・さっきはごめんなさい、つまらない話をして」

あらためて思う。
つまらない事を、恥ずかしいことを話してしまった、と。

お金を取り巻く話なんて品がない。
でも彼には話してみたかった。
きっと、黙って受け止めてくれるだろうと思えたから。

「謝ることはないですよ。それに、つまらないなんて思いません、僕は。
 たいへんだなって、かえって心配してしまいます・・
 それにしても・・ひどいですね、その奥さんは。
 せっかくの美紗緒さんの好意を踏みにじるような事をして。
 やっぱり、未だになにも?」

皿の上のマドレーヌを指でつまんだまま動きを止めた涼輔は、
美紗緒の顔を見つめ続けた。

頷いて、大きくため息を吐く美紗緒の様子を見ているだけで、
それ以上聞くまでもないと思った。
そして自分も余計な事は言わずにおこうと口をつぐんだ。
この人は、相手に対して非難するような事を何も言っていない。
黙って、起きてしまった事実だけを受け止めている。
心の中にくすぶっているだろう感情を押さえつけ、これ以上
なにも語ろうとはしていないのだ。
その気持ちを組みとろう。

涼輔はそっとため息をついた。



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