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最後の一色
第7章 6日目
「僕の父は画家だったんです。
幼い頃から兄と2人、父のアトリエで絵を描いて遊び、
それがやがて打ち込めるものへと変わっていった。
環境が引き出した結果、とでも言いましょうか。
生まれた時から絵に囲まれて育った僕ら兄弟は何の迷いもなく、美大に進みました」
涼輔はいったん筆を止め、美紗緒の前に立つと確認するような目を走らせてから、
またキャンバスの前へと戻った。
「でも兄は画家にならずに美術館の学芸員になりました。
実は兄貴、大学時代からの恋人とすぐにでも結婚したかったらしくて、
不安定な画家よりも雇われて給料をもらう道を選んだわけです。
それでも普通のサラリーマンにならなかったのは
芸術から離れたくないからって。それくらい相手にのめり込んでいれば
僕も今頃結婚できていたかもしれないですね」
昨日、結婚に縁のないのも人生なんだ、そう言っていた涼輔の言葉を
美紗緒は思いだした。
彼にとって絵のほうが結婚よりも勝っていたと勝手に納得する自分が、
いかにありふれた人間かと思わずにはいられなかった。