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最後の一色
第10章 13日目
さっそく明日から夕食を作る、と美紗緒は息を弾ませる。
「田原さん、どんなものがお好きなの?
記念すべき第一日目のご飯は田原さんのリクエストにお応えしますわ。
ね、なにがお好き?」
人妻は涼輔のすぐ横に立つと、まじかに顔を寄せてくる。
肩にも手をかけられ、その熱に腰が浮きそうになる。
急に距離を縮められて男は額に汗をかいた。
「あ、そうだな・・じゃあ、ありふれてるけど肉じゃがなんていいなぁ。
やっぱり家庭料理と言えば和食、だからね。
男にとってのあこがれ、みたいなもんだから。いいですか?」
「ええ、もちろん。なんだかすごく楽しみだわ・・あら、私ったら
ちょっと変よね、お手伝いさんの仕事なのに楽しみだなんて」
高らかな美紗緒の声は、蝉をも驚かすくらいにぎやかにキッチンに響く。
つられた涼輔の笑い声も重なると、真夏らしい明るい騒々しさが家じゅうを包む。
まだまだ暮れない空は、2人を引き離さずに
天の高いところから時の流れをやり過ごしていた。