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今宵ワタシの胸の中で
第2章 BARで飲み過ぎた夜に
「私、あなたに初めて会ったわ…」

「ワタシはずっと石田様を見ていました。あの人が去る今、もう我慢なんてしない。」

あの人が去る??

えっ?!先輩がいなくなること知ってるの?

「あなた、誰なの?」

「ずっと葵先輩を見てきた。でも、先輩の視界に僕は全く入ってないんだね…」

私を葵先輩と言った!本当に誰なの?

怖くなって、抱きしめられている体を離そうと身を捩る。でも、酔って力の入らない体と力強い腕に逃げることができない。

「そんなに怖がらないでください…葵先輩。僕、隣の部署の楠瀬です。」

楠瀬?隣の部署?
酔った頭で自分の職場の人の名前と顔をフル回転で思い出す…

あっ…2年目の楠瀬君。でも、いつもの彼は眼鏡をかけていて、髪型だって違う。服もスーツじゃない。

「本当に楠瀬君なの?」

まだ半信半疑で、改めて彼の顔をよく見る。

「そうですよ。やっぱり僕のことなんて視界に入ってなかったですよね?」

確かに声は楠瀬君のような気がする。隣の部署だし、挨拶くらいしかしないけど。

「どうして、ここにいるの?」

「ここ、叔父の店なんです。学生の時、バイトしてました。葵先輩のことは入社する前から知ってます。」

えっ?そんな前から?あっ…確かに昔、見たことあるかも?

「葵先輩、寝ちゃったから…叔父が僕に連絡を。同じ職場なこと知ってるから。」

「すごい迷惑をかけちゃった…ごめんなさい。」

楠瀬君に抱きしめられたまま、酔って寝込んだ失態を改めて悔やんだ。

「いえ…僕にはラッキーでしたよ。ずっと見てきた葵さんを迎えに来れて…」

そんなに優しい眼差しで私を見ないで…。

失恋したばかりだし、酔ってるし、さっきのキスでクラクラしてるし…。

「葵さん…僕、ずっと前からあなたが好きだったんです。少しずつでいいから、僕を見てくれませんか?」

真っ直ぐ私を見る目が愛しくて、うん。と頷いた。

「とりあえず、ここの鍵かけて帰りましょう。送ります…。」

楠瀬君はそう言って、私に甘い深いキスをしてくれた。

彼の腕の中、それは新たに始まる恋のキス…

《fin》
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