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らぶあど encore!
第9章 ライヴ=人生?④
「大丈夫、大丈夫……
体も、心も痛くないよ……」
子守唄を囁く様に、亮介の耳元で優しく言いながら、ギュッと抱き締める。
暫くそうしていたが、観客の声援が一際大きく耳に届くと、亮介は弾かれたように顔を上げて景子から離れた。
景子は、いつもの冷たい瞳で首を傾げて見ている。
「――ほら、皆がお待ちかねよ?
さっさと行きなさい」
亮介は、急いでドアを開けて走って行くが、また戻って来ると、景子を強く抱き締めた。
「ちょっ……」
景子が振り払う前に亮介は離れて、曇りの無い瞳で見つめた。
「――ありがとうね、景子ちゃん」
唖然とする景子を残して亮介はステージへと向かった。
暫くすると割れる様な歓声と共に轟音にも似たバンドサウンドが鳴り始めた。
「はあ……
取り合えず、始まって良かったわね」
景子は呟き、舞台裏へ向かおうとしたが、ふと自分の掌に残る亮介の温もりを思い出し足を止める。
懐かしい様な、胸苦しい様なこの感覚。
これは、覚えのある感情の芽だった。
景子は打ち消す様に首を振り、苦く笑った。