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らぶあど encore!
第15章 それぞれの、朝 ②
「!?」
あぐりは、指で瞼を擦り、もう一度野村をマジマジと見つめた。
もう、稲川の幻は現れないが、ほんの一瞬のそれだけで、あぐりの心は千々に乱れ始める。
別れてからも、日本を代表する程の人気ミュージシャンの稲川の活躍を目に、耳にしない日は一日として無かったけれど、胸の中を乱される事はなかったのだ。
多分それは、離婚に多大な手間とエネルギーを使ったのもあるし、志村の元で仕事をしながらメイクの猛勉強をしたり、夢中で過ごしていたせいなのだろう。
もう大丈夫だと思っていた。
彼の事は、文字通り綺麗な想い出で、それで良いと。
私は、前だけを向いて、後ろは見ない、と――